労働災害に対する事業主の対応のポイント

1 労働災害対応のポイント

企業側としては、労災保険で対応することが第一となりますが、安全配慮義務違反があると判断された場合には、民事責任(損害賠償責任)のほか、刑事責任や行政責任を負う可能性があります。

 

(1)労災事故が起きた場合の企業側の法的責任

企業は、労働者を使用することによって利益を得ている以上、労働者の生命・身体の安全・衛生について十分な配慮をしなければなりません。

企業側(使用者側)が労働者の生命・身体の安全・衛生に関して負う義務を規定しているのは、労働安全衛生法です。労働者が労災事故によって受傷したり死亡したりした場合、労働安全衛生法に基づき、企業側は民事責任、刑事責任または行政上の責任を負うことになります。

 

(2)企業側の民事責任

企業側は、雇用契約に伴い、信義則上、労働者の生命・身体の安全・衛生を配慮する安全配慮義務も負担すると解されており、労災事故が起きた場合には、労働者に対する安全配慮義務違反という債務不履行責任が問われることになります。

そして、企業側は、安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負担することとなります。

 

(3)企業側の労災補償責任

労働基準法は、労働者保護の見地から、労働災害があった場合に、企業側は労働者に対して労災補償責任を負わなければならないと規定しています(労働基準法75条以下)。

 

(4)企業側の刑事責任

労災事故が起きた場合、企業側は、業務上過失致死傷罪や、労働基準法違反や労働安全衛生法違反に問われ、刑事責任を負わなければならない場合があります。

 

(5)企業側の行政責任

労災事故が起きた場合、企業側は、行政指導や行政処分等、行政責任を負わなければならない場合があります。

 

2 労働災害発生後の対応

(1)労災保険給付等の請求書の証明

労働者が労働災害により負傷した場合等には、労働者等が休業補償給付等の労災保険給付の請求(労災保険法12条の8第2項)を労働基準監督署長に対して行うことになります。

その際、事業主は、労災保険給付等の請求書において、①負傷又は発病の年月日、②災害の原因及び発生状況等の証明をしなくてはなりません(労災保険法施行規則12条の2第2項等)。

なお、ここでいう「事業主」とは、労働者の雇主を指すのが原則ですが、建設業については元請人であるとされています(労働保険の保険料の徴収等に関する法律8条、同施行規則7条)。

したがって、上記相談事例では、会社が事業主として証明することになります。

 

(2)労働者死傷病報告の提出

事業者(事業を行う者で労働者を使用する者(労働安全衛生法2条3号)をいい、労働者の雇主を指します)は、労働災害により労働者が死傷した場合には、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に対して提出しなければなりません(労働基準法施行規則57条、労働安全衛生規則97条)。

休業4日以上の場合には遅滞なく提出し、休業4日未満の場合には3か月ごとに提出しなければなりません(労働基準法施行規則57条2項、労働者安全衛生法規則97条2項)。

労働者死傷病報告を提出すべき場合は、下記①〜④の場合です。

  1. 労働者が労働災害により、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
  2. 労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
  3. 労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
  4. 労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき

提出された労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成などに活用されており、労働災害の原因を分析し、同種労働災害の再発防止のための対策の検討に活かされるなど、労働安全衛生行政の推進に役立てられています。

 

(3)労災隠しの違法性

故意に労働者死傷病報告を提出しなかったり、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出したりすると、労災隠しとして、処罰を含めた厳正な処分がなされるおそれがあります(労働安全衛生法第100条、同法第120条第5号)。

 

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